チンアナゴは、熱帯の海の砂地に、巣穴を作って生息するウナギ目アナゴ科の魚です。
砂から顔を出して、海藻のようにゆらゆら揺れたり、外敵が現れると砂にサッと隠れたり。姿も動きもとてもユニークですよね。
実は、1959年に存在が認められた魚で、その生態はまだたくさんの謎に包まれています。この記事では、そんなチンアナゴの魅力をたっぷりお届けします。
チンアナゴの絵を描き続けて10年!「チンアナゴのお姉さん」と呼ばれるイラストレーターいせきあいが、今まで調べてきたチンアナゴネタをイラスト付きでお伝えします。
チンアナゴのからだ
普段は半身を砂に埋めた状態で過ごしています。
砂の中がどうなっているか気になりますよね。
チンアナゴの全身まる見えイラスト
細長い身体つきのチンアナゴ。全長:約40cm、直径:1.4cm程度まで成長します。
ちなみに、メスよりオスのほうが身体が大きくなるそうです。
細マッチョ!?チンアナゴの尾びれ
チンアナゴは尾びれの先から海底の砂地に巣穴を掘ります。尾びれをドリルのように使って勢いよく掘り進め、身体の2.5倍ほどの長さの巣穴を作ります。細い身体ですが筋肉質なんですね。
一生懸命穴を掘る姿がまた可愛い……。
巣穴に入ると「フーッ」と安心した様子のチンアナゴ。
時には、尾びれだけちょろっと出てる姿も。
チンアナゴの目はとても良い!
外敵が近づいて来たら一斉に砂の中に隠れ、身を守ります。
チンアナゴは視力が良く、餌の大きさの他、敵の種類までをも見分けているのではないかということが徐々に明らかになってきました。
警戒心が強いチンアナゴですが、動くもの全てにただ反応して隠れる臆病者、というわけでは無いんですね。
外敵とチンアナゴの反応についてもっと知りたい人は下記の研究を見てみてくださいね。
※海外サイト:science matters”Varied response of garden eels to potential predators and other large-bodied organisms”(潜在的な捕食者とその他大型生物に対するガーデンイールたちの様々な反応)
チンアナゴの斑点のひみつ
チンアナゴの身体には5つの黒い大きな斑点があります。
身体の両側面に2つずつ(計4つ)。そのうちの上側の2つの斑点部分にはエラと小さな胸びれがあります。
また、おなかの部分にある黒い斑点に肛門があります。普段、この部分は砂の中に隠れていることが多いですが、うんちをするときは、肛門部分が巣穴の外にでるまで身体を伸ばします。
チンアナゴのくらし
チンアナゴはどんな海に暮らしてる?
インド洋~西太平洋など、熱帯のあたたかい海に暮らしています。
高知以南や八丈島・小笠原諸島・琉球列島の海域に生息し、水深約10m~50mのサンゴ礁周辺の砂地や斜面に巣穴を作っています。
海藻が密集している場所で、身をうまく隠しながら暮らしていることもあります。
チンアナゴの群れ
チンアナゴは通常、コロニー(群れ)を作って生活しています。コロニーは数匹~数百匹単位でつくられています。
約10,000匹の集団生活!
記録されている中でも最大級のコロニーは、紅海で見つかったシンジュアナゴの一種による、約1万匹、5,752平方メートル(約76m✕76m。畳3,000枚以上)の面積を占めるものだったそうです。
みんな同じ方向を向いている?
潮の流れの早い場所を好み、巣穴から半身を出して、海流に乗ってくる動物プランクトンを食べて生活しています。餌を待ち受けるため、チンアナゴたちはみんな仲良く同じ方向を向いているんですね。
しかし10,000匹も一緒にいて、食べ物に困ることないのかなあ……?
チンアナゴの夜
「アナゴ(穴子)」の仲間は、昼間は砂や泥の中に潜っていて、夜に餌を求めて泳ぎだす「夜行性」が一般的な性質です。そんな中珍しく、チンアナゴたちは、昼間にプランクトンを食べ、夜は巣穴の中で眠る生活をしています。
チンアナゴの穴のしくみ
チンアナゴの穴は崩れない?
チンアナゴの穴を上から覗いたことがあるのですが……
あれ?!穴が崩れていない!砂が固まってる?
これは、チンアナゴの皮膚から出る粘液を使って、穴が崩れないように砂をセメントのように固めているからではないかと言われています。巣穴が崩れないからこそ、いざというときに素早く逃げられるんですね。
チンアナゴの名前の由来
■和名:チンアナゴ
■学名:Heteroconger hassi(ヘテロコンガー ハッシー)
■英名:Spotted Garden Eel(スポテッド ガーデンイール)
「珍アナゴ」ではなく「狆アナゴ」
「めずらしいアナゴ」の「珍アナゴ」と思っていたという声も聞かれますが、犬の「狆(ちん)」に顔と色が似ているからというのが本当の名前の由来です。
英語の名前は ”Spotted Garden eel”
海底で揺れるチンアナゴの集団が、まるで庭の草木が生えているように見えたことが由来となっています。
チンアナゴは黒い斑点があるため「斑点のある(Spotted)」「庭(Garden)」「うなぎ(eel)※」という名前が付いています。
※チンアナゴは大きく分類すると「ウナギ」の仲間です。
チンアナゴの種類
チンアナゴは「ウナギ目アナゴ科チンアナゴ亜科チンアナゴ属」に分類されています。
サンゴ砂から顔を出して、プランクトンを食べる…アナゴ科の中でも特異な生活スタイルをしている「チンアナゴ亜科」の仲間たち。世界の海にはたくさんのチンアナゴがいますが、日本の海周辺でよく見られる種類を紹介します。
ニシキアナゴ
学名:Gorgasia preclara
英名:Splendid garden eel
チンアナゴ亜科シンジュアナゴ属
体長約35cm、直径約1cm
水族館などで、チンアナゴとともに展示されることの多い種類です。
日本では高知県や琉球列島など、海外ではフィリピン諸島やグアム島などの海で観察されています。
チンアナゴよりもやや小型で、警戒心が強いと言われています。また、生活する場所も、チンアナゴの生活する場所よりも若干深い(水深18m~75mあたり)砂地でコロニーを作って生活しています。
身体の色は黄色と白の縞模様をしています。この色合いが「錦(美しい色の糸で模様を織り出した絹織物)」のように華やかであることが、ニシキアナゴの名前の由来となっています。
ニゲミズチンアナゴ
学名:Heteroconger fugax(ラテン語でfugaxは恥ずかしがり屋)
英名:Shy Garden Eel
チンアナゴ亜科チンアナゴ属
体長約70cm
日本で見つかった新種のチンアナゴ。日本の学者2名(藤井琢磨氏、小枝圭太氏)により2016年に採集・研究され、2018年に新種と認められました。
鹿児島県大島海峡の限られた一部の場所で40個体前後のコロニーが複数確認されています。
特徴は
- チンアナゴ以上に警戒心が強い
- 人が近づくとすぐに巣穴に隠れる
- 「逃げ水(蜃気楼)」現象を彷彿とさせるほどの素早さ
このことから、ニゲミズチンアナゴの名前がつけられました。
シンジュアナゴ
学名:Gorgasia japonica
英名:Pacific spaghetti eel
チンアナゴ亜科シンジュアナゴ属
体長約100cm
チンアナゴに比べ大型の種類。身体側面に白い斑点が並んでいます。日本では八丈島と八丈小島付近でしか見られない地域限定種。(※)水深10m~40mで観察されています。
※引用文献:『ネイチャーウォッチングガイドブック海水魚』,加藤昌一,誠文堂新光社,P35
ゼブラアナゴ
学名:Heteroconger polyzona
英名:Zebra Garden Eel
チンアナゴ亜科チンアナゴ属
体長約30cm
名前の通りシマウマを思わせる、白地に黒の縞模様と斑点のある、特徴的な模様のゼブラアナゴ。
日本では愛媛県愛南、沖縄、西表島で観察された記録があります。フィリピン、インドネシアなどでも見られる種類ですが、個体数が少なく、2020年現在、絶滅危惧IA類に指定されています。
※参考資料:PDF「海洋生物レッドリスト掲載種において注目される種のカテゴリー(ランク)とその評価の理由」,環境省,2017
アキアナゴ
学名:Gorgasia taiwanensis
英名:Sharp-nose garden eel
チンアナゴ亜科シンジュアナゴ属
体長約74cm
台湾や南日本などに生息し、日本では静岡県、高知県柏島、西表島で観察されています。身体全体は乳白色でオレンジ色の小さな斑点模様、唇は黒っぽい色をしています。
英名に「Sharp-nose」とあるように、鼻の頭がチンアナゴよりも尖った形をしています。
チンアナゴの産卵・繁殖について
野生下のチンアナゴたちは、一度巣穴を作ったらほとんどその場所で暮らし、繁殖期が近づくとペアになるチンアナゴの近くに巣穴を移動するといわれています。
住み慣れた巣穴を飛び出して、パートナーのもとへ!どうやって相手を選んでるんだろう?
卵を産む前のうごき「かくかく行動」
チンアナゴは、メスが水中で卵を放出し、それにオスが精子をかける方法で繁殖が行われます。
またニシキアナゴについては、メスが産卵直前に「かくかく行動」という特徴的な動きをすることが、すみだ水族館の研究で明らかになりました。
特にニシキアナゴは、興味深く特徴的な産卵行動が確認されました。まず、雌が巣穴からカクカクとした動きで体を伸ばして放卵し、雌の放卵後に雄が巣穴から体を伸ばし放精するという特有の行動が見られました。また、ニシキアナゴの雌1匹と複数の雄が直線状に並び、放卵・放精を行う姿も観察されました。
「すみだ水族館、世界初、チンアナゴ類の産卵行動の動画記録に成功」,オリックス株式会社,Digital PR platform
チンアナゴの雑学5選
1.チンアナゴの幼魚は何色?
受精した卵は海を漂いますが、どこでどのように成長しているのかは、まだ明らかになっていません。
巣穴を作れるくらいの大きさにまで成長した幼魚は、真っ黒な姿をしており、成魚とともに群れの中で生活している姿が見られます。
成長するにつれて、徐々にチンアナゴの特徴的な模様が出てくるそうです。
2.チンアナゴの天敵とは?
逃げ足の早いチンアナゴ。
一体、どんな魚がチンアナゴを捕まえているのでしょうか?
天敵の具体的な確定まではまだ至っていませんが、魚食性硬骨魚(魚を食べる魚)たちが狙っているようです。
世界各地の海で、チンアナゴが他の魚に捕食されている場面を、ダイバーや研究用カメラが捉えいるという情報もあります。
下記ではサンゴ礁域に暮らす動物食の魚たちをご紹介。
フエダイ
サンゴ礁域に暮らす動物食の魚。
ウミヘビ
海底の砂浜にもぐる達人。チンアナゴの巣穴の下に潜り込んで、下から攻撃する?!
モンガラカワハギ
気性が荒い、昼行性の魚。強い歯を持っている。
3. チンアナゴは食べられるの?
お寿司のネタにアナゴがあるためか、チンアナゴは食べられるの?という疑問もたまに聞かれます。結論から言うとチンアナゴは「観賞用」の魚です。
- 食用とするには、大きさ(身)が小さすぎる
- 捕獲するためには普通の漁では困難
などが食用とならない理由として挙げられるかと思います。
見た目や動きのユニークなチンアナゴ。ぜひ「見て」楽しみましょう!
ゆらゆらする動きが癒やされるチンアナゴ。鑑賞のため、おうちでチンアナゴを飼育している人もいるよ。
4.チンアナゴに会える場所
水族館
水族館の人気者として、日本のほとんどの水族館で見られるようになってきました。
「どこで見ても一緒でしょ」という訳ではないんです!
水族館によって展示方法は様々で、
- チンアナゴだけの水槽
- サンゴ礁周辺の他の魚との混泳
- 砂を透明ビーズにして展示
など、水槽によってチンアナゴたちの様子もちょっとずつ違います。
お互いの距離が近くなりがちな水槽ではケンカが見られたり、他の魚との混泳水槽では、近づいてくる魚へのチンアナゴの反応や如何に…!とスリルがあったり。
迫りくるアオヒトデ。どうする?チンアナゴ! しかもヒトデの腕は1本じゃない。安心していたら次が来そうな予感… pic.twitter.com/r2VwFyG9o5
— アクアワールド茨城県大洗水族館 (@aw_oarai) August 30, 2020
チンアナゴをきっかけに他の魚も好きになっていく~
ぜひ、お近くの水族館でのチンアナゴの様子を楽しんでみてくださいね。
ダイビング
日本でも、海に潜ってチンアナゴ・ニシキアナゴを見られる場所があります。沖縄の他、高知県や愛媛県の太平洋側などで観察記録があるので、いつか海の中で対面……というのも叶えたい夢のひとつに加えても良いかもしれませんね。
5.「ちんあなごのうた」がある!
2010年10月にYouTubeで公開された、うた&アニメ「ちんあなごのうた」。チンアナゴの「もひちん」とニシキアナゴの「にっしー」たちが歌い踊る!一度聞いたら忘れられないユニークな歌詞&明るい気持ちになれるロック調の楽曲です。
最後は、手前味噌ですが私が作ったアニメーションのご紹介でした。
いかがでしたか?
年々研究が進み、様々な謎が明らかになってきたチンアナゴ。絶滅が危惧される種類がいることも分かってきました。
これからもチンアナゴたちが元気に暮らし続けていけるために、少しでも海を汚さない工夫を生活に取り入れていきたいですね。